Voice of a graduate奨学生の声
— 拝啓、せんぱい —
天正十年(1582 年)創業。鹿革に漆で模様を描く伝統工芸「甲州印伝」を製造・販売する株式会社印傳屋 上原勇七で働く、小津仁美さんにお話を伺いました(内容は、2019年6月のインタビュー当時のものです)。
通学路だった商店街の衰退をみて、
地域活動が盛んな県立大への進学を決意
―大学で、まちづくりや地域活性化について学ぼうと思ったきっかけは何ですか?
高校生の頃、甲府の中心街を通って通学をしていましたが、毎日通る商店街の中には閉店してしまうお店もあり、そのたびに私にも何か貢献できることはないかと考えていました。
ちょうどその頃、地元の新聞で、山梨県立大学が取り組む課外活動の記事を読み、県立大に入ると学生が地域に密着した活動に参加できることを知りました。その後、オープンキャンパスに参加し、地域活動が盛んな大学であることを先生や先輩から教えてもらい、県立大学の国際政策学部へ進学することを決めました。
多くの素晴らしい出会いがあった
大学生活
―大学の講義で特に面白かった講義は何ですか?
専門科目である経済学や行政学など様々な社会学を学び、自分の視野を広げることができましたが、特に、山梨県における政策課題と企業論の講義は面白かったです。県の行政や民間の方々が講師となってお話をしていただきました。山梨県の現状をリアルに聞くことができた貴重な体験でした。
―課外活動も積極的に参加されたそうですね。
はい。県立大学には、課外活動など熱心に参加していた素晴らしい先輩がたくさんいました。私も地域に根差した大学の特長を活かし、様々な課外活動に取り組みました。まちづくりの団体である「四菱まちづくり総合研究室」と、環境サークルの「山梨エコユースフォーラム」に参加したことで、地域について多くのことを学びました。
―それぞれの活動について詳しく教えていただけますか?
「四菱まちづくり総合研究室」(通称:よつびし総研)では代表も務め、甲府中心街の商店主さんや甲府商工会議所、行政と協力しながら、中心街の活性化に取り組みました。活動拠点となる事務所を大学内ではなく街の中に設け、皆で議論を重ね、街おこしイベントなどを開催しました。
マヨネーズの着ぐるみを着て、
ごみ拾い活動を実施する
山梨エコユースフォーラム
また、甲府中心街のお店を学生目線で評価した「ビシランガイド」という企画もやりました。飲食店や雑貨店にインタビューをして、山梨日日新聞のタウン紙『かわせみ』(現在は終刊)に掲載していただきましたが、月1回の発行にもかかわらず、反響があり嬉しかったです。そして、記事数がある程度まとまったところで冊子を制作し、大学や商店街に配布をしました。
もうひとつ私が所属していた「山梨エコユースフォーラム」では、サッカーJ2・ヴァンフォーレ甲府の試合が行われる山梨中銀スタジアムのごみゼロ化運動に取り組み、ごみの持ち帰りを呼びかけるパフォーマンスをしました。サポーターに呼びかけることで、ごみを捨てていく人たちを減らしていこうというのが目的です。また、試合が行われた日のごみを集めて、どのようなごみが多かったか分析し、ごみの削減方法についても考えました。これらの活動が評価され、2010年12月東京で行われた「第8回全国大学生環境活動コンテスト」で、グランプリ・環境大臣賞を受賞したことで自信に繋がりました。
―積極的に講義や課外活動に取り組み、有意義な大学生活を過ごされたようですが、卒業研究はどのようなテーマで取り組んだのでしょうか?
地元の新聞で、甲州ワインをEUに輸出するプロジェクトの記事を読み、このプロジェクトに興味を持ちました。ワインと言えば本場フランスですが、地元の甲州ワインをEUに輸出するというのが面白いと思い、ゼミの先生に話をしたところ、当時、山梨県で盛んになり始めたワインツーリズムのことを教えていただきました。「ワインツーリズムの課題を見出しながら、ワインという地元の資源を活かした観光を卒業研究のテーマにしたらどうか」と先生にアドバイスをもらい、これをきっかけに私は、「ワインツーリズムの現状と課題」を卒業研究のテーマとして取り組みました。
まずは、ワインツーリズムを知るため、実施団体に話を聞きに行ったのですが、実際にスタッフにならないとわからないこともあり、大学3、4年の2年間、勝沼地域のワインツーリズムのスタッフとして参加しました。卒業研究を通して、山梨県にはまだまだ地元の人たちも知らないような魅力が、数多く存在していることを知りました。
大学での活動が繋がり、
現在のお仕事へ
―卒業後は、山梨の地場産業である印伝を製作・販売している印傳屋に入社されましたね。こちらで働こうと思った決め手は何ですか?
講義や課外活動を通して、改めて、甲府市や山梨県が好きであることを実感し、将来は、地元山梨の魅力を多くの方に発信できるような仕事に就きたいと考えていました。私はたくさんの講義を受けていましたが、その中でも、企業論という山梨県内の有名な企業の方が特別講師になっていただく講義が好きでした。企業論は通常の講義とは異なり、夏休み期間の集中講義だったので受講生はわずかでしたが、やる気のある学生が集まりました。
その時、印傳屋の方が講師として来てくださり、伝統的工芸品である甲州印伝について詳しく知りました。講義の最後には、受講した学生に印傳屋の印鑑ケースをプレゼントしてくれたのが思い出に残っています。また、印傳屋がよつびし総研のスポンサー企業にもなっていたので、活動報告書を印傳屋に毎月提出していました。このようなご縁もあり、私は地域活性化に貢献できる印傳屋に入社することを決めました。
―現在、印傳屋ではどのようなお仕事をされていますか?
来店されたお客様の接客を中心に行っています。印伝に使われる柄は、縁起が良い柄などそれぞれに意味が込められているため、どういったものがお好みかお伺いしながら、おすすめの商品をご提案しています。また、全国各地からお問合せがあるので、その対応もしています。
印伝で使用する鹿革はとても丈夫で、使っていくうちに滑らかになり、手になじんでいくのが特長です。ご年配の方が持たれるイメージがあるかもしれませんが、本店では週末、若い家族連れのお客様も増えています。
また、昨年から免税の対象にもなったので、アジアからのお客様が増え、英語を使う機会が多くなりました。印傳屋では、毎年9月に新作の柄を発表したり、キャラクターとのコラボ商品を出すなど、伝統は守りつつも時代に合わせた要素を取り入れて、若い世代や外国人のお客様にも楽しんでいただける工夫をしています。
―お仕事において、今後の夢や目標があれば教えてください。
現在、印傳屋の商品は国内だけでなく、ニューヨークの展示会やお店にも置かせてもらっています。来年は東京オリンピックの年でもありますので、外国人の方にも印伝を紹介していきたいです。地場産の伝統的工芸品が海外に認められていくのはとても素晴らしいことだと思いますので、ニューヨークなどの海外戦略や新商品の開発にも、いずれは携わっていきたいと思っています。
大学の時の出会いが、
今の自分を作ってくれた
―奨学金制度を検討している学生へ、メッセージをお願いします。
大学の4年間はあっという間なので、自分がやりたいことを突き詰めてほしいです。そのためにも、奨学金のチャンスがあるなら、ぜひ検討してみてください。私は、奨学金をいただいていたおかげで、アルバイトに費やす時間が減り、講義や課外活動にしっかり参加することができました。
自分の時間を作れたのは、学生生活の中でも大きな経験と糧になりました。学生のうちに、行政、商店主、商工会議所の方々など社会人と議論することができたのも大変良い勉強となりました。大学生の時に出会った人たちはこれから先も繋がっていくと思います。私は、その人たちのおかげで今があると感じています!
文/写真:真壁在