Voice of a graduate奨学生の声
— 拝啓、せんぱい —
母親の笑顔を取り戻してくれた理学療法士に出会ったことがきっかけで、自身も理学療法士の道へ進んだ千葉美幸さんにお話を伺いました(内容は、2018年7月のインタビュー当時のものです)。
中学・高校時代の吹奏楽部で学んだ大切なこと
―中学・高校時代に打ち込んでいたことはありますか?
西関東大会演奏の様子(ポスターより)
中学では吹奏楽部に所属し、毎日厳しい練習をこなしていました。中学2年の時に全国大会に出場して銀賞を受賞し、高校に進学しても迷わず吹奏楽部に入部しました。
高校2年の時に部長になり、約50名の女子高校生の心をひとつにするのは大変でしたが、高校3年の夏のコンクールでは県大会を最高得点で通過し、西関東大会で銀賞を受賞しました。「継続は力なり」という言葉があるように、続けていくことで結果が伴い、大きな自信となりました。
吹奏楽部の部長になってからは、チーム全体を俯瞰して評価するようになり、効果的な練習方法をずっと考えていました。これは現在の仕事においても、自身のスキルアップや職場の勉強会で役に立っていると思います。
―理学療法士になりたいと思ったきっかけは何ですか?
私が中学2年の時に、関節リウマチを患っていた母が、両膝の人工関節置換の手術を受けました。手術の後に一緒にリハビリルームへ行き、そこで理学療法士の仕事を初めて見ました。リウマチの痛みで暗い表情ばかりしていた母が、リハビリが進むにつれて徐々に笑顔を取り戻し、理学療法士の方に感謝の気持ちでいっぱいになりました。そのことがきっかけとなり、私も人の役に立ちたい、人を幸せにする仕事がしたいと思うようになりました。
当時はあまり知られていない職種でしたが、理学療法士について調べてみると、国家資格でもあり、高齢化が進む日本ではますます必要になっていく職業だと周囲から言われました。職場体験に参加し、理学療法士の仕事について色々と学んでいくうちに、私も理学療法士になりたいという想いが強くなりました。
片道2時間かけて通い続けた大学
―甲斐市から片道2時間かけて大学に通っていたそうですね。
はい。理学療法士になる目標を持って、健康科学大学に入学しましたが、朝早く家を出て夜遅く帰宅する日々が続き、気力と体力を持続させることが何よりも大変でした。しかし、先輩や先生の話を聞いたり、実習で実際に患者さんを担当するうちに、理学療法士への夢が膨らみ、最後まで諦めずに通学することができました。
―大学ではどのようなことを学びましたか?
教科書で学んだことを実習で確かめ、その根拠を考察してレポートとして提出する授業が多かったので、考察を書くにあたり、多くの文献を読んだり、友達と考えたりしながら夜遅くまで勉強していました。
クリニックで行った検査実習では、問診や血圧測定、関節角度・筋力測定など、何度も友達と検査の練習を行って実習に臨みましたが、実際に患者さんを前にすると緊張してしまい、スムーズに検査することがとても難しかったです。
大学4年の5月から7月にかけて10週間の病院実習があり、実際に患者さんを担当しましたが、不自由な体を一生懸命に回復させようと頑張っている患者さんには私の方が力をもらいました。
大学で多くの病気を学び、苦しんでいる人がたくさんいるということを知った一方で、理学療法は様々な症状に対処できるということも学びました。痛みのケアだけでなく心のケアも必要だと感じ、理学療法士は、病気や障害の辛さだけでなくその状況の裏にあるものを理解しないといけない難しい仕事だと思いました。
痛みのケアだけでなく、心のケアもできる理学療法士を目指して
―現在のお仕事の1日の流れを教えていただけますか?
朝礼が8時45分から始まり、9時から患者さんを診ます。1日に10人前後担当し、その間に外来の患者さんも2~3人は診ます。今の職場は疾患別に班分けをしていて、私は「整形疾患」を担当し、入院から退院まで1人の患者さんを担当しています。
また、昨年から同じグループで訪問看護ステーションを開設し、私もリハビリスタッフとして1週間に半日だけ訪問リハビリを行っています。リュックを背負って、電動自転車に乗って半日で3~4ヵ所はまわります。急性期病院から退院した患者様を、継続して在宅でも診させていただける環境であり、貴重な経験だと思っています。
―大学で学んだ後も、専門的な分野や最新の医療技術など勉強は続けているのですか?
はい。自主的に勉強会に参加し、学校で学ぶことよりも更に専門的なことなどを学んでいます。仕事をしながら新しい知識を得るのは大変ですが、医療技術は日々進歩しているので、私が学生時代の教科書に載っていた評価方法がもう使われていないことも珍しくないですし、学生が実習に来ると「授業では習いませんでした」と言われることもあります。医師も学会で新しい知見を得てくると、骨折の固定方法などの術式を変えるので、理学療法士の私たちもそれに合わせて、理学療法を変えていかなければなりません。
疾患別の資格試験もたくさんあり、働きながら試験勉強をするのはとても大変ですが、学んだことを臨床に活かしていきたいという思いで頑張っています。
―理学療法士に必要なことは何だと思いますか?
患者さんは、「ここが痛い」とか「こういう動きができない」という身体の問題点は伝えてくれますが、「歩けなくて子どもの世話ができず、子どもとの折り合いが悪くなった」など体が動かないことで起こっている生活の問題点については、生活事情や家庭事情が関わってくるため、あまり訴えることがありません。リハビリに通う回数や時間で回復速度をコントロールすることができたり、目標に合わせたリハビリ内容を選択するため、そういう事情であれば、私たちも治療スピードをあげたり、リハビリ内容を変更することができます。患者さんの訴えから読み取れる生活上の問題点を考察し、治療選択に生かすことが大切だと思っています。
理学療法の役割は日常生活の活動を維持・向上していくことだと言われています。なかには「向上」することが目標でない方もいます。痛みがあっても上手く付き合えるように病態を理解させることや生活動作を修正させること、終末期の方については体が動かない今の状況でできる目標を共有することなど、幅広い考え方が理学療法士には必要だと感じます。
―今後の夢や目標があれば、教えていただけますか?
現在は、急性期病院で様々な疾患の進行や回復過程を学びながら働いていますが、最終的には訪問リハビリで自分の力を試したいと思っています。検査機器のない環境下で、緊急性の判断を求められる難しい現場のため、今からできるだけたくさんの経験を積むことが大切だと考えています。
勉強だけは裏切らない
―奨学金制度を検討している学生へ、メッセージをお願いします。
私は奨学金の給付を受けていたことで、勉強する時間を確保できました。奨学金がなければ、勉強の時間を削ってアルバイトをしなければならなかったと思います。
奨学金制度を検討している皆さんにお伝えしたいことは、「勉強だけは裏切らない」ということです。学生時代に少しでも勉強できる時間を確保して、目標に向かって進んでください。奨学金制度を活用して夢を叶えられるよう、祈っています。
文/写真:真壁在