Voice of a graduate奨学生の声
— 拝啓、せんぱい —
大学では英語教育を学びながら積極的に課外活動へも参加し、4年生の時には長年の夢だったイギリス留学。大学での様々な経験を活かし、現在は、山梨の自然豊かな高校で英語科教諭として熱心に指導にあたる長尾星子さんにお話を伺いました(内容は、2017年12月のインタビュー当時のものです)。
英語との出会い
―現在は高校で英語の先生としてご活躍されていますが、英語に興味を持ったきっかけは何ですか?
思い返してみると、保育園に通っていた頃、母親がよく聴いていた英語の歌を意味も分からず歌っていました。紙にカタカナの歌詞を書いてくれたのがうれしくて、それを見ながらずっと口ずさんでいました。音楽が好きだったので、その頃は“英語”として認識していたのではなく、聴こえるままに歌っていたと思います。
その後、英語をきちんと勉強したのは中学校の授業からですが、学校で習った単語や英文法を用いて、英語の歌詞が読めるようになることが楽しくて、高校時代はずっと洋楽を聴いていました 。
様々な活動に参加し、夢を実現した大学生活
―英語教育を学ぶため、山梨大学に進学した長尾さん。交換留学プログラムに参加するという夢を実現するために、様々な課外活動に参加し準備を重ねていったそうですが、もともと、行動に移すことが苦手な学生だったとお聞きしています。どのようにして変わることができたのでしょうか?
大学に入った当初は正直、卒業後の進路が見えていませんでしたが、あと4年で学生生活が終わってしまうと思った時、自分は「何がしたいか」「何ができるか」をきちんと探さなくてはいけないと感じ、とにかく気になったことは行動してみようと意識的に取り組みました。
1年生の時から、県の教育委員会が主催する「学生教育ボランティア」に参加し、中学校の各教科の学習補助を担当しました。毎回試行錯誤の連続で、教師という職業の楽しさと難しさを知りました。その他にも、留学生との交流サークルに入り、そこでのリーダー経験から海外との青年交流事業に参加することもできました。さらに別の交流事業の企画に携わることもでき、世界がどんどん広がりました。
―留学生との交流サークルでは、どのようなことをしたのですか?
山梨大学への留学生と日本人学生との交流を活性化しようという目的で作られたサークルで、ベトナムや中国などの、アジアからの留学生が多くいました。活動内容は、お花見などの日本文化を伝える「イベント」、お互いの文化などについて話し合う「ディスカッション」、週に2回お昼を持ち寄っておしゃべりをする「ランチ会」の3つがありました。ランチ会のグループリーダーになり、その後、サークル全体のリーダーにもなりました。リーダーとしてサークルをまとめるのはとても大変でしたが、留学生と交流できたことは、山梨にいる自分にとって良い刺激をもらい、視野を広げてくれたので、貴重な経験になりました。
―サークルのリーダー経験がきっかけで参加することができた青年交流事業は、どのようなことをしたのですか?
「日独学生青年リーダー交流事業」という文部科学省の委託事業で、日本とドイツの学生が集まり、様々な教育施設をまわって「若者の社会参画」についてディスカッションをしました。応募条件が「青少年団体等でリーダーをしていること」だったので、サークルのリーダーをしていたおかげで申し込むことができました。ドイツ団が日本に来たときは一緒に合宿をして、ドイツへ行った時は、行政や環境・教育に関するNPO法人などの施設をまわって色々学びました。日本の学生に比べて、ドイツの学生は政治や行政についてきちんと自分の意見を持っていたことに驚きました。
―様々な活動で経験を積んだ後、長年の夢だった交換留学プログラムに参加することになりましたが、いかがでしたか?
4年生の時にようやく実現したイギリスへの交換留学は、英語教師としてのスキルアップや異文化体験など、学ぶことがたくさんありました。日本の学校制度や教育を客観的に見ることもできました。また、ずっと実家暮らしだったので、親元を離れて自立した生活がしたいと思っていて、学校の寮に入って毎日自炊をしていました。留学中は英語を使って何かするということが、とても楽しかったです。
そして、英語とは別に音楽の授業もとっていたのですが、同じコースで知り合った学生に誘われて、小さなバンドを組み、キーボードを担当しました。たまたま、交換留学先の大学が150周年という記念の年で、近くの博物館で演奏する貴重な経験もしました。
育ててもらった故郷に恩返しをする気持ちで、山梨県の教員に
―大学卒業後、英語科教諭として山梨の高校に着任し、2年目で初めて担任のクラスを持った長尾さん。大学で英語教育についてたくさん学ばれてきましたが、実際に「先生」になられていかがですか?
大学で英語教育を学んでいた頃は、教科としての「英語」をどう教えるかずっと考えていました。それももちろん大切ですが、担任のクラスを持つようになるとクラス運営も重要で、生徒との関わり方を日々模索しています。
特に、現在担当している3年生は進路指導があり、今後の人生の方向を決めるとても大事な時期です。数年前は自分が同じ立場にいたので、不安な気持ちはとても理解できます。色々な生徒がいるので、進路について相談された時には「こんな大学があるよ」とか「その仕事に就きたいなら、こういう道もあるよ」と引き出しをたくさん持っていないといけないなと思っています。
―先生という職業の魅力は何ですか?
ほんの些細なことで、報われた気持ちになることでしょうか。遅くまで帰れない日が続いたり、生徒によっては様々な悩みや問題を抱えていて、正直大変なこともあります。生徒と話をしていて、心の中で「本当にこの子のためになっているのかな?」とか「私の気持ちが伝わっていないかも…」と不安になることもありますが、「先生、どうもありがとうございました!」と言ってくれる生徒もいて、そのひと言で、大変だったことも忘れられます。
また、昨年の担当学年の生徒が、「先生と一緒に修学旅行に行きたかったな」と言ってくれたこともあり、担当学年を離れても生徒との交流があることがうれしいです。うちの生徒は、素直な子が多いんです!
―英語を教える時に、いつも心がけていることはありますか?
実用的な英語を覚えてもらいたいので、身近な例文を出すようにしています。文法をひとつ教えるにしても、高校生が実際に言いそうなことを考えて、例文を作ります。また、授業の流れで私の留学時代の話もします。私の話を聞いて、「先生、私も留学したい!」と相談にくる生徒もいて、自分の経験が役に立っていることが実感できてうれしいです。
―今後の夢や目標について教えていただけますか?
今は目の前の仕事をしっかりこなすことで精一杯ですが、英語の授業をもっとこうしたいとか、次にまた3年生の担任になる時はこうしたいとか、色々考えています。また、学校の運営に関しても、もっと他の先生の役に立ちたいと思っています。その先に、夢や目標があると思うのですが、まだやりたいことが漠然としているので、今はそれを整理しているところです。
山梨県で教員をやろうと思ったのは、「育ててもらった故郷に恩返しがしたい」という気持ちがあったからですが、チャンスがあれば、もう一度海外にも行きたいですね。最新の知識を日本に持って帰るという意味で、海外で英語教育をさらに深く勉強したいです。
思い切って挑戦することで、世界が広がる!
―最後に、奨学金の利用を考えている学生の皆さんに、メッセージをお願いします。
赤尾育英奨学会のことは、同じ学科でこの奨学金をもらっている先輩がいたので、その人に色々教えてもらったり、学校にポスターが掲示されていたりしたので、応募しました。奨学金のおかげで、貴重な大学生活もアルバイト三昧にならず、興味のあることに時間を注ぐことができました。授業だけでなく課外活動にも積極的に参加し、それらの経験が将来に繋がりました。また、ボランティアなどの課外活動に参加すると、分野の違う人との知り合いもでき、今でも連絡をとって仕事の相談に乗ってもらうことがあります。
奨学金を考えている学生の皆さんにお伝えしたいことは、限られた学生生活の中で気になることがあったら、思い切って何でも挑戦していってほしいということです。私はそれを実践したことで、様々な人と出会い、世界が広がりました。うまくいかなかったこともたくさんありますが、それは、“何が自分に向いているのか”を気づかせてくれる良いきっかけになります。ぜひ、様々なことにチャレンジして、自分の道を切り開いていってください!
文:真壁在 写真:徳永一貴